ワールブルク効果
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がん細胞は様々な代謝燃料に依存していますが、そこで実際に使われる栄養素はがん細胞の遺伝的要素および環境的要素の両方の影響を受けています。
ほとんどの哺乳動物細胞では、グルコースが燃料として利用されます。グルコースは解糖系によって様々な反応を経て代謝され、最終的にピルビン酸になります。正常な酸素レベル下にある通常の細胞では、このピルビン酸の多くはミトコンドリアに入り、そこでクレブス回路によって酸化されてATPを産生し、細胞にエネルギーを供給しています。しかし、がん細胞または盛んに増殖する細胞タイプでは、解糖系で生成されたピルビン酸の大部分はミトコンドリアに入らず、乳酸脱水素酵素 (LDH/LDHA) を介して乳酸を生成します。これは通常、低酸素の条件下でみられるプロセスです。酸素の存在下で起こる乳酸の生成は「好気的解糖」、または「ワールブルグ効果」と呼ばれています。
がん細胞は、別の燃料源としてしばしばグルタミン酸を使用します。これはミトコンドリアに入ってクレブス回路の中間体の補給に用いられたり、リンゴ酸酵素の作用を介してより多くのピルビン酸を生成したりします。増殖性の高い細胞は、新たな生体成分を生成するために、過剰な脂質や核酸、アミノ酸を産生する必要があります。過剰なグルコースは、Pentose phophate shunt (PPS) やセリン/グリシン生合成経路を介して、核酸の生成に転用されます。脂肪酸は新たな膜産生にとって重要であり、細胞質基質内で、ATP-citrate lyase (ACL) によってクエン酸からアセチルCoAが生成されることによって合成されます。利用可能な場合は、酢酸もまた、アセチルCoA生成の炭素源となります。新たな脂質の合成には、NADPHの還元当量が必要です。これはリンゴ酸酵素、IDH1の作用を介して、またPPS経路内やセリン/グリシン代謝内の複数の段階で生成可能です。これらの還元当量は、がん細胞に特徴的な活性酸素種の増加に対する、防御反応の一端を担います。また、一部のがん細胞は細胞外タンパク質、アミノ酸、脂肪などを取り込むことができることも分かっています。マクロピノサイトーシスは、細胞外物質を大量に細胞内へ取り込んでリソソームへ輸送できるプロセスで、細胞が細胞外物質を分解して代謝に必要な栄養素を供給する手段の1つです。これらの栄養素はATPやNADPHを生成することもあれば、生体成分として直接使用されることもあります。
がん細胞にみられるワールブルグ効果やその他の代謝の表現型には、増殖因子の刺激は、RTKを介したシグナル伝達を介して、PI3K/AktおよびRasを活性化します。Aktはグルコース輸送体の活性を促進し、ヘキソキナーゼやホスホフルクトキナーゼ (PFK) などといった複数の解糖系酵素の活性化を介して解糖系を刺激します。Aktによる、Baxなどのアポトーシスタンパク質のリン酸化は、がん細胞のアポトーシス抵抗性獲得を促し、ミトコンドリアヘキソキナーゼ (mtHK) のVDACチャネル複合体への結合を促進することによって、ミトコンドリア外膜 (OMM) を安定化します。c-MycへのRTKシグナル伝達によって、解糖系と乳酸産生に関わる非常に多くの遺伝子の転写活性化が起こります。p53がん遺伝子は、TIGAR (TP-53-induced Glycolysis and Apoptosis Regulator) の転写を活性化し、PPSによるNADPHの生成の増加させます。HIF (Hipoxia inducible factor) の上流シグナルは、LDHAなどの酵素の発現を増加させ、乳酸の産生を促進します。また同様に、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現も増加させてピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害し、クエン酸回路へのピルビン酸の流入を制限します。また、安定的に供給された代謝基質は、ヒストンとDNA上のエピジェネティックな修飾に作用することによって、遺伝子発現に影響を及ぼし得るとする研究結果も増えつつあります。
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この図をレビューして下さった、マサチューセッツ工科大学 (マサチューセッツ州、ケンブリッジ) のMatthew G. Vander Heiden教授に感謝いたします。
作成日:2010年11月
改訂日:2016年9月