ネクローシス
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ネクローシスは古くから化学的あるいは物理的な傷害に応答した、プログラムされない細胞死として定義されています。ネクローシスの典型的な特徴には、細胞の膨潤や破裂などがあります。
ネクローシスは受動的で、プログラムされない細胞死であると考えられてきましたが、近年の研究によってネクローシスに類似した、カスパーゼとは独立のプロセスを経るプログラムされた細胞死の存在が明らかになってきました。このプログラムされたネクローシス様細胞死はネクロプトーシスと呼ばれています。ネクロープトーシスは外因性刺激 (デスレセプター-リガンドの結合) 、内因性刺激 (微生物由来の核酸) のどちらによっても誘導される場合があり、カスパーゼ活性によって阻害されます。さらに、パイロトーシスと呼ばれる、もう一つのプログラムされたネクローシス様細胞死が知られています。パイロトーシスは自然免疫応答で大きな役割を果たし、炎症性カスパーゼを介して誘導されます。
ネクロプトーシス
RIPK1、RIPK3およびMLKLがネクロプトーシスに関与している主な分子です。RIPK1のキナーゼ活性は複数種の複合体を形成し、それぞれが炎症 (complex I)、アポトーシス (complex IIa)、ネクロプトーシス (complex IIb) などを制御しています。IAPによってRIPK1がユビキチン化されると、NF-κBとその下流の炎症カスケードが活性化され、またRIPK1のSer320がリン酸化されます。Complex IがCYLDやA20などの脱ユビキチン化酵素によって阻害されると、RIPK1はカスパーゼ-8との相互作用を誘導し、Complex IIaによるアポトーシス誘導経路に移行していきます。Complex IIbとネクロプトーシスには、RIPK3との相互作用が必要で、カスパーゼ-8は、RIPK1、RIPK3を切断することでネクロプトーシスを阻害することができます。FLIPは触媒不活性なカスパーゼ-8のホモログです。FLIPがComplex II内に組み込まれることでRIPK1の切断が抑制され、ネクロプトーシスが誘導されます。RIPK1活性を阻害することが報告されている低分子Necrostatin-1 (Nec-1) の存在下では、ネクロプトーシスの阻害が観察されます。RIPK1はSer320のほか、Ser166、Ser161、Ser14/15といった自己リン酸化部位をもち、これらがNec-1によって阻害されます。
ネクロプトーシスを誘導する際にRIPK3はSer227がリン酸化され、これが下流のエフェクタータンパク質MLKLの活性化に必要になります。RIPK1、RIPK3、MLKLは複合体を形成し、ネクロソーム (Complex IIb) とも呼ばれます。MLKLはリン酸化されると多量体化し、細胞膜に移行してホスファチジルイノシトールに結合します。これによって細胞膜の崩壊と細胞破壊が引き起こされます。このMLKLの作用により、Ca2+やNa+の流出が起こります。また、細胞膜に直接的な孔が形成されることで、ミトコンドリアDNA (mtDNA)、high-mobility group box 1 (HMG1)、Interleukin (IL)-33、IL-1α、ATPなどが細胞外に放出されます。これはcDAMP (cell damage-associated molecular pattern) と呼ばれ、細胞の危機を周囲に伝える細胞間情報伝達の機能を担うと考えられています。細胞内ROSとネクロプトーシスの関連性も指摘されていますが、これらの効果はROSとは独立に起こっているようです。
多量体化したRIPK3は、MLKLやRIPK1非存在下でアポトーシスを誘導することができます (RIPK1非依存的ネクロプトーシス)。さらに、機能的なRIPK1-MLKLの相互作用がないままネクロソームが安定化すると、カスパーゼ-8がリクルートされ、アポトーシスが誘導されます (RIPK1非依存的アポトーシス)。RIPK1とRIPK3の相互作用が細胞死に直結するわけではない点にご注意ください。RIPK1は、カスパーゼ-8依存性アポトーシスとRIPK3誘導性ネクロプトーシスの両方を抑制することができます。ある一定の条件下でRIPK1はRIPK3を活性化することができます。
Toll様受容体 (TLR) は、ネクロソームとTRIFの相互作用を介してネクロプトーシスを活性化することができます。ウイルス感染のセンサー分子DAI/ZBP1によって活性化されたインターフェロンシグナル伝達やTRIFによって、RIPK3はRIPK1を介さずネクロプトーシスを誘導することができます。また、RIPK非依存的な非感染性の炎症性反応は、DAMPを介したネクロプトーシスによっても誘導されます。
近年の研究によると、ネクロプトーシスは、がんや神経変性疾患に関与していることが示唆されています。ネクロプトーシスはがんの転移に関与しており、したがって、ネクロプトーシスの経路を阻害すればがんの悪性化を抑制できると考えられます。さらに、Necrostatin-1による治療が、アルツハイマー病とパーキンソン病における細胞生存能力を改善したことが報告されています。すなわち、ネクロプトーシスの機構やその他の細胞死経路の研究は、様々な疾患の新規治療法の開発につながることが期待されています。
パイロトーシス
パイロトーシスを起こした細胞では、病原性分子の結合、細胞膜の孔形成と崩壊、細胞質からの炎症性物質の細胞外放出という過程を辿ります。パイロトーシスは、病原性関連パターン分子 (PAMP)、危険関連パターン分子 (DAMP) によって誘導され、Toll様受容体 (TLR) などの特定のパターン認識受容体 (PRR) に認識されます。
インフラマソーム複合体には、一般的に次の4つの構成因子があります:1) 細胞質のPRR、2) NLR (nucleotide-binding domain and leucine-rich-repeat) またはALR (AIM2-like receptor) ファミリーメンバー、3) アダプタータンパク質 (ASC)、4) プロ-カスパーゼ-1。インフラマソームはプライミングと活性化の2つのステップを経てパイロトーシスを誘導します。インフラマソームが組み立てられた後、プロ-カスパーゼ-1が切断されて活性型となります。これが前駆体IL-1βやIL-18を切断して成熟型炎症性サイトカインIL-1βとIL-18を産生し、またGasdermin D (GSDMD) の切断も行います。一方、細胞質LPSはこれとは異なる様式でパイロトーシスを誘導し、カスパーゼ-4*、5*および (または) 11を活性化してGSDMDを切断します。どちらの経路でもGSDMDの切断が起こるため、GSDMDが重要な媒介分子であると言えます。近年の研究で、C末端ドメインが切断されて活性化したGSDMDのN末端が、IL-1βの直接的/間接的な活性化を介して形質膜に孔を形成することが分かっています。
パイロトーシスはがん、自己免疫疾患、神経変性疾患などの治療への応用が期待されています。オメガ3脂肪酸が、トリプルネガティブ乳がん (エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HERの全てが陰性で、ホルモン療法や抗HER療法の効果が期待できない乳がん) のパイロトーシスを誘導するという研究結果が得られていますが、そのメカニズムは現在はっきりしていません。炎症性大腸疾患では、インフラマソームの活性化とカスパーゼの誘導がみられ、パイロトーシスが病態に寄与することが示唆されています。このメカニズムを明らかにして新規治療法の開発につなげることが期待されています。
*注:カスパーゼ-4とカスパーゼ-5は、マウスカスパーゼ-11のヒトホモログです。
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