CUT&Tagの概要
CUT&Tag (Cleavage Under Targets & Tagmentation) は、CUT&RUNと同様に、より迅速で低コストのChIP-seqの代替となる解析方法です。CUT&Tagは、ChIP-seqに比べてより少ないサンプル量、簡単なワークフロー、より低いシーケンシングコストでクロマチンをプロファイリングできます。また、バックグラウンドが低いため、S/N比が向上します。CUT&Tagは、ライブラリー調製の大半のステップをin vivoで行うため、CUT&RUNよりも迅速でありながら、CUT&RUNと同等のデータを取得できます。また、シングルセル解析が可能です。
Cell Signaling Technology®のCUT&Tagの試薬とキットは、他の製品と同様に、その性能について厳密に検証されています。また、CSTは、これらと同じ試薬をCUT&Tag抗体の検証に用いているため、その性能と信頼性は常に保証されています。
CUT&Tagが他の手法とは違う点
従来のChIPとChIP-seqは、クロスリンクしたクロマチンのプロファイリングに用いられますが、CUT&TagとCUT&RUNは、どちらも未変性のクロマチンのプロファイリングに使用できます。CUT&TagとCUT&RUNは、どちらも細胞膜の透過化を行うため、一次抗体は核膜孔を通って核内に進入し、そこで目的の標的に結合できます。抗体には適切なpAG-酵素融合体が結合されており、この酵素を活性化させると、抗体が結合部位の両側のDNAが切断されます。
CUT&RUNとCUT&Tagは、いずれもDrosophila Spike-in正規化用コントロールを使用できます。実験開始時にDrosophila 核Spike-inを加え、その後に一次抗体インキュベーションステップで対応するH2Av抗体を加えます。
Drosophila Spike-inコントロールを用いた実験ワークフロー
CUT&TagとCUT&RUNの違い
- CUT&Tagでは、一次抗体のインキュベーションステップ後に二次抗体のインキュベーションステップを行い、シグナル強度を高めます。
- CUT&Tagは、高塩濃度の条件下で行われます。どちらの方法でもヒストンの解析は可能ですが、高塩濃度の条件下では標的タンパク質-DNA相互作用が妨げられる場合があるため、CUT&Tagは転写因子やコファクターの解析にはあまり適しません。これは特に、存在量が少ない標的や結合の弱い標的にあてはまります。
- CUT&RUNでは、Ca2+で活性化させたpAG-MNaseを用いてDNAを切断しますが、CUT&Tagは、Mg2+で活性化させたpAG-Tn5を用いてDNAを切断します。Tn5にはイルミナアダプターが組み込まれており、このアダプターは、DNAの切断プロセス中にクロマチンに付加されます。
- CUT&Tagでは、タグメンテーション後に細胞膜と核膜の両方を透過化し、CUT&Tag DNAを完全に可溶化します。つまり、最終的なDNAサンプル中にはタグ付けされたDNAとゲノムDNAの両方が存在するため、CUT&Tag DNAはqPCRに適しません。qPCRをご希望の場合は、CUT&RUNを推奨します。
- CUT&Tagでは、in vitroでのアダプターライゲーションステップを省略して、シーケンシング用のDNAライブラリーのPCR増幅に直接進むことができるため、実験にかかる時間が短縮されます。
- CUT&Tagによる実験にかかる時間の短縮は累積されるため、サンプル数を増やせば増やすほど多大な時間を短縮できます。
CUT&Tagの利点:
より短時間で結果を取得 | 細胞からのDNAライブラリー調製は1-2日で完了。CUT&Tagでは、ライブラリー調製が効率化されているため、CUT&RUNに比べて25%の時間短縮が可能 |
少量のサンプルで解析可能 | ChIP-Seqに比べて、約40分の1のサンプル量1 |
低深度のシーケンシング = シーケンシングコストが低減 | バックグラウンドが低いため、必要な高品質リードはわずか約200万リード |
CUT&Tagでは、Whole-Workflow Spike-In Normalization Controlが利用可能
CSTは、CUT&Tag Assay Kit #77552に適合する2種類のCUT&Tag Drosophila Spike-In Controls Kitを提供しています。
キット | |||
コントロールの組成 | Drosophila核spike-inおよびH2Avラビットモノクローナル抗体 (宿主種がラビットの一次抗体用) | Drosophila核spike-inおよびH2Avマウスモノクローナル抗体 (宿主種がマウスの一次抗体用) | |
カバーするワークフロー | 細胞処理 (透過化、抗体結合、クロマチン断片化)、DNA精製、ライブラリー調製、シーケンシング | ||
正規化の目的 | アッセイ全体にわたる技術的なばらつき | ||
使用例 | 薬剤による撹乱試験、ゲノム全体にわたる微細なクロマチン変化、複数バッチ間の比較、実験開始時のサンプル量が異なる実験だけでなく、ライブラリー調製やシーケンシングにおけるばらつき | ||
Drosophila Spike-inを用いた正規化により薬物反応データの信頼性が向上<br/>
正規化されたデータでは、Tazemetostat処理サンプルは阻害と一致してH3K27me3とEZH2のシグナルが低下している一方で、H3K4me3とH3K27acのシグナルは同等のレベルを維持しています。この結果から、Drosophila Spike-in用いた正規化戦略により、得られたヒストン修飾の全体的な変化が技術的なばらつきではなく真の生物学的反応の違いを表しているという信頼性が高まることが分かります。
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Rabbit)
正規化されたデータでは、Tazemetostat処理サンプルはEZH2阻害と一致してH3K27me3シグナルが低下している一方で、H3K4me3シグナルは同等のレベルを維持しています。この結果から、Drosophila Spike-in用いた正規化戦略により、得られたヒストン修飾の全体的な変化が技術的なばらつきではなく真の生物学的反応の違いを表しているという信頼性が高まることが分かります。
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Mouse)
Drosophila Spike-inコントロールを用いた段階希釈した細胞サンプルにおけるシグナルの正確な正規化
Drosophila Spike‑inを用いた正規化により、CUT&Tagのシグナル強度は開始細胞数に正しく比例させることができます。以下の細胞の段階希釈実験では、正規化によりMYC遺伝子全体にわたるシグナル強度と初期細胞数との間に強い正の相関を示しており、サンプルインプット量の違いが適切に反映されたことが分かります。
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Rabbit)
正規化されたデータでは、GAPDH遺伝子全体にわたるシグナル強度と初期細胞数との間に強い正の相関があり、サンプルのインプット量の違いが適切に反映されています。
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Mouse)
CUT&TagとCUT&RUNの比較
CUT&TagとCUT&RUNは、どちらも時間やサンプルが十分でない場合のタンパク質-DNA相互作用の解析に役立ちます。
以下の表を参考に、どちらの手法が適しているかをご検討ください。
| CUT&Tag | CUT&RUN |
|---|---|---|
ヒストンとの適合性 | ✔ | ✔ |
転写因子との適合性 | 条件次第 | ✔ |
コファクターとの適合性 | 条件次第 | ✔ |
Drosophila Spike-inコントロールとの適合性 | ✔ | ✔ |
Yeast Spike-inコントロールとの適合性 | X | ✔ |
qPCRに適合 | X | ✔ |
NG-seqに適合 | ✔ | ✔ |
DNAライブラリー調製 | In vivo | In vitro |
細胞からのDNAライブラリー調製 | 1-2日 | 2-3日 |
少量の細胞 | ✔ | ✔ |
シングルセル解析 | ✔ | X |
シーケンシング深度 | 200万 | 300万-500万 |
CUT&Tagは、次世代シーケンシング (NGS) に適しており、サンプルと時間が限られている際の「ヒストン修飾がクロマチン結合をどのように制御するか」の研究に最適です。また、お客様自身やCSTなどの抗体サプライヤーによりCUT&Tag用に特別に検証された抗体を用いれば、転写因子の研究にも活用できます。
CST® CUT&Tag Assay Kit #77552とDrosophila Spike-In Control Kitをご注文いただくと、CUT&Tag実験に必要なすべての試薬を入手できます。または、必要な試薬だけを個別にご購入いただくことも可能です。弊社は、すべてのCUT&Tag試薬に対し厳密な社内検証を行っており、常に高品質な試薬をお届けすることを保証します。また、CSTが提供するCUT&Tag検証済み抗体の拡大中の製品リストから、抗体をお選びいただくこともできます。
比較可能なデータとより迅速な結果の取得
CUT&Tag試薬を用いることにより、ライブラリー調製にかかる時間は半分で、CUT&RUNと同等の高品質なデータが得られます。
CUT&Tagを用いたヒストン修飾の解析
ヒストン修飾の研究の際は、CUT&Tag Assay Kit #77552とCUT&Tag Dual Index Primers and PCR Master Mix for Illumina Systems #47415、Tri-Methyl-Histone H3 (Lys4) やTri-Methyl-Histone H3 (Lys27) などのカタログ製品を用いることにより、ChIP-seqやCUT&RUNと同等のデータが得られます。たった100,000個の細胞からDNAライブラリーの調製までを、わずか1-2日間で完了できます。
H3K4me3
H3K27me3
CUT&Tagを用いた転写因子とコファクターの解析
Nanog、Estrogen Receptor α、JARID2などの転写因子やコファクターの研究の際は、CUT&Tag Assay Kit #77552、CUT&Tag Dual Index Primers and PCR Master Mix for Illumina Systems #47415およびCUT&Tag検証済み抗体を用いることにより、ChIP-seqやCUT&RUNと同等のデータが得られます。たった100,000個の細胞からDNAライブラリーの調製までを、わずか1-2日間で完了できます。
Nanog
Estrogen Receptor α
JARID2
CUT&Tagを用いた組織サンプルの解析
CUT&Tagを用いて、組織サンプルのヒストン就職を解析することもできます。組織内の転写因子またはコファクターの解析には、CUT&RUN Assay Kit #86652を推奨します。
脳組織
肝臓組織
心臓組織
BioanalyzerまたはTapeStation Systemでのシグナルが低くてもシーケンシングが可能
NGS用に精製したCUT&Tag DNAは、Agilent社のBioanalyzerやTapeStationシステムなどのプラットフォームでの品質チェックを行う前に、Thermo Fisher Scientific社のNanoDropやQubit Fluorometric Quantificationシステムなどのプラットフォームで定量できます。計算上のDNAライブラリーの収量は、使用する定量方法によって異なることにご注意ください。
CUT&Tagの閾値は、ChIP-seqやCUT&RUNよりも低くなっています。そのため、どのCUT&Tag試薬を使用していたとしても、Agilent社のBioanalyzerまたはTapeStationシステムでのプロファイリングでピークが非常に弱い、またはピークが見られない場合にもDNAライブラリーのシーケンスを正常に行うことができる場合が多々あります。BioanalyzerまたはTapeStationシステムでのシグナルが低い場合でも、高いゲノミクスシグナルを含むシーケンシングデータが取得可能であるため、シーケンシングに進むことを推奨します。
収量が低いライブラリーに関する重要なヒント:
- 適切なツールの使用:より正確な評価を行うために、StandardではなくHigh SensitivityのScreen Tapeアッセイを推奨します。最適化されたその反応系により、CUT&Tagライブラリーの微弱なシグナルをより効果的に検出できます。
- ヒストン修飾と転写因子の違い:ヒストン修飾では明確なシグナルが得られるのに対し、転写因子やコファクターのライブラリーではピークが非常に弱い、あるいは目に見えるピークがまったく得られないことが多々あります。
- プロセスを信頼:シグナルが弱い場合でも、多くの場合にこれらのライブラリーを用いて高いマッピング率と明確な結合ピークを示す高品質なNGSの結果が得られます。
- 実験を成功に導くライブラリーのプール:BioanalyzerまたはTapeStationで平均ライブラリーサイズを確定できない場合は、サイズを900 bpと推定して使用することを推奨します。収量が低いライブラリーを意図的にやや高い割合でプールすることにより、優れたシーケンス結果を確保できます。
収量が低い場合の対処については、以下のブログをご覧ください。CUT&Tag DNAライブラリーの収量:DNAライブラリーの収量が検出するには低すぎる場合にすべきこと
Bioanalyzerシステムを用いた3つの異なるCUT&Tagライブラリーのプロファイリング
3つの異なるCUT&TagライブラリーのNGSトラック
他の方法として、既知のポジティブおよびネガティブ遺伝子座に対するプライマーを用いてCUT&Tag DNAライブラリーのqPCRによる品質チェックを行い、NGSの前にクロマチン断片の濃縮率を決定することもできます。
CUT&Tag関連製品
CSTのCUT&Tagキットやカタログ試薬は、実際に実験を行う科学者と該当領域の専門家で構成される弊社のエピジェネティクスアプリケーションチームによって社内で検証されており、確実に機能することが確認されています。下記よりお客様のワークフローに適したソリューションを見つけてください。
カタログ番号 | 製品 |
|---|---|
| 77552 | CUT&Tag Assay Kit |
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Rabbit) | |
Drosophila Spike-In Control Kit for CUT&Tag (Mouse) | |
| 79561 | CUT&Tag pAG-Tn5 (Loaded) |
| 47415 | CUT&Tag Dual Index Primers and PCR Master Mix for Illumina Systems |
| 63228 | CUT&Tag PCR Master Mix |
| 35401 | Goat Anti-Rabbit IgG (H&L) Antibody |
| 52885 | Donkey Anti-Mouse IgG (H&L) Antibody |
| 2729 | Normal Rabbit IgG |
| 68860 | Normal Mouse IgG |
| 14209 | DNA Purification Buffers and Spin Columns (ChIP, CUT&RUN, CUT&Tag) |
| 93569 | Concanavalin A Magnetic Beads and Activation Buffer |
| 16359 | Digitonin Solution |
| 27287 | 100X Spermidine |
| 7012 | Protease Inhibitor Cocktail (200X) |
| 10012 | Proteinase K (20 mg/mL) |
| 20533 | 10% SDS Solution |
| 7011 | 0.5 M EDTA, pH 8.0 |
| 31415 | 10X Wash Buffer (CUT&RUN, CUT&Tag) |
| 15338 | Antibody Binding Buffer (CUT&RUN, CUT&Tag) |
参考文献
- Kaya-Okur HS, Wu SJ, Codomo CA, et al. CUT&Tag for efficient epigenomic profiling of small samples and single cells. Nat Commun. 2019;10(1):1930. Published 2019 Apr 29. doi:10.1038/s41467-019-09982-5
- Egan, B. et al. An Alternative Approach to ChIP-Seq Normalization Enables Detection of Genome-Wide Changes in Histone H3 Lysine 27 Trimethylation upon EZH2 Inhibition. (2016) PLoS ONE 11, e0166438
- Taruttis, F. et al. External calibration with Drosophila whole-cell spike-ins delivers absolute mRNA fold changes from human RNA-Seq and qPCR data. (2017) Biotechniques 62, 53-61 Pubmed 28193148
米国特許番号11,733,248、その外国特許、およびそれらから派生する子特許の対象です。
本製品は、米国特許番号9938524、10689643、11306307、12049622、その外国特許に基づくActive Motif, Inc.からのライセンスの下で提供および販売されています。購入者の内部研究に限ります。再販や受託サービス、その他の商用利用を禁じます。
米国特許番号7,429,487、その外国特許、およびそれらから派生する子特許の対象です。
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